7/10 シンポジウム「【景観】の本質を考える」(横浜 みなとみらい16街区)

7月10日、JIA日本建築家協会神奈川支部 主催のシンポジウムが横浜開港記念会館にて開かれました。

当日はUstream配信をし、現在は録画配信をしています。

シンポジウム「【景観】の本質を考える」(横浜 みなとみらい16街区)

プログラム
1) 「美しい景観が住みやすい街をつくる」山本理顕氏(建築家)
2) フランスの公共空間整備について /  赤堀 忍氏 (芝浦工業大学教授:環境計画・建築計画)
3) 景観と法 – なぜ法は景観を守ってくれないか?/ 木村草太氏(首都大学東京准教授:憲法学)
4)ディスカッション:モデレーター 鈴木伸治氏(横浜市大准教授:都市計画)

プレゼン内容を言い換えますと、

1) 景観問題の前提の整理
2) フランスにおける都市美
3) なぜ景観論争では勝訴が難しいか

といった感じでしょうか。

このシンポジウムをふまえて、
横浜は今後なにをすべきなのかといった議論が、
今後きちんと展開されたらと思います。

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7/10 日経ケンプラッツの記事

7/10のケンプラッツに記事が掲載されました。

元横浜市職員が書いています。
今年の4月からの数ヶ月は都市デザイン室にいらした方で、
「今まで公務員だったため書けなかったことも、歯に衣を着せずに書きました。ぜひともお読みください」とのことです。

1ページ目は、計画概要。
2ページ目は、景観論争の経緯。論点の整理。
3ページ目は、港湾局と都市デザイン室の関係。

3ページ目から、新しい情報が出てきます。

例えば、港湾局について、「(みなとみらいの)償還のためには、土地(埋立地など)を売ってお 金を捻出する必要があり、売れる土地ならば、どこでも売っていきたいという事情は確かにある。美観よりも経済性を重視せざるを得ない状況にあるともいえ る。ただし、「16街区」については、定期借地権である。その点では、あまり利益は大きくなく、償還にもそれほど寄与しない。」

4ページ目では、内水域の他の問題の現状と、結婚式は本当に経済性が高いのかという問題提起。
5ページ目では、市長のおっしゃる「おもてなし」の心は、景観にあらわれてしまうこと。
6ページ目では、市場にまかせるだけでなく、行政がコントロールしてこそ、景観はつくられていくこと。それから、都市美が持つ意味。

全部で6ページあります。

以下、記事の全文です。

景観で揺れる横浜市、都市デザインを捨てる?
仲原正治の「まちある記」(24)

http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20120706/574789/?P=1

(無料ですが登録が必要です。)

景観で揺れる横浜市、都市デザインを捨てる?
仲原正治の「まちある記」(24)

1ページ目

横浜は今、景観論争で揺れている。「みなとみらい21・新港地区16街区」(以下「16街区」という)の結婚式場のデザイン(設計:清水建設)を巡っ て、横浜市長の諮問機関である横浜市都市美対策審議会(会長:卯月盛夫・早稲田大学教授、以下「都市美審」と略す)の協議が不調となったからである。横浜 市は、この案件のデザインをほぼそのまま認めて、市の土地を貸付ける判断をするのではないかと推察されている。都市美審の様子は、ケンプラッツが4月13 日に報道した記事「結婚式場を巡る景観協議が物別れに、横浜市」にも描かれている。

横浜市に都市美審ができたのは1965年だ。市役所に都市デザイン室ができたのが1971年だから、行政が主体的に都市の景観に取り組む前から、有識者 に都市の美を審議してもらっていた。当時は、経済性や機能優先で、都市に美的感覚を持ち込むことは国では考えていなかった時代だ。

都市美審は、都市の美観の向上や魅力ある都市景観づくりを図ることを目的に、建物やまちなみの美観、デザインなどのほか、「景観法」や「横浜市魅力ある 都市景観の創造に関する条例」(以下「景観条例」と略す)に基づく景観ルールに関することなど、重要事項について審議を行う機関だ。委員には専門家だけで はなく市民の代表や商工会議所からも選ばれている。

横浜は都市デザイン室が中心となり、美しいまちづくりを目指した

横浜市の景観についての姿勢は、この40年間あまり一貫して先進的であり、日本の景観行政を牽引していたといって過言ではない。1964年の東京オリン ピック開催にあたって建設された首都高速道路が日本の道路の原点というべき日本橋の上につくられ、現在になって、大きな問題になっている。横浜市は、その 時代に建設省(現・国土交通省)と景観論争を行い、桜木町~関内間にできる高速道路を地下化したという実績がある。当時の建設省は効率優先で「都市を美し くしようなんてけしからん」という態度だったと田村明氏(元・横浜市技監、故人)が述べている。その後も、歴史的建造物の保存活用や、公開空地の設置な ど、行政側が次々に施策を打ち出してきた。そのことが、現在の横浜の都市の魅力につながっている。

近年、この新港地区では、赤レンガ倉庫の活用に際して、建物は元のままで保存活用し、景観にマッチした形で、一部だけ外面にガラスの飲食ブースを作るな ど、地区独自の歴史性への配慮をしてきた。また、桜木町駅から赤レンガ倉庫までの旧貨物線跡を歩行者専用通路「汽車道(山下公園まで続く「開港の道」の一 部)」として整備するにあたっても、ナビオス横浜というホテルの真ん中に大きな公共空間を作るよう指導し、行政が率先して景観づくりを誘導してきた。歴史 的建造物の保存活用や水辺を大切にするとともに、歩行者を中心としたまちづくりを進めてきたわけだ。その結果、横浜は日本だけでなく、アジアの諸国から も、都市デザインの先駆的都市として、魅力ある都市づくりを進めていると高く評価されている。

こうした長年の経緯によって、横浜で新しく建築をしたり、歴史的建造物の活用を進めたりしようとする開発者の間では、景観や歴史に配慮した計画を進めな ければいけないという意識が醸成されてきた。目に見えない規範を長年の蓄積で作り出してきたことが横浜の財産となっている。国も2004年には「景観法」 を制定し、地域の特徴ある景観を守っていく姿勢を示している。

2ページ目

景観論争の経緯

「16街区」の土地は、コスモワールドの大観覧車の足もとにある。昨年までは中古車販売の店舗・駐車場が利用していた場所だ。桜木町駅から赤レンガ倉庫 に続く汽車道の対岸に位置する。そのため、みなとみらい21地区の景観をつくるうえで非常に大切な場所である。土地の4分の3は民間が所有し、4分の1は 横浜市が所有している。ここに30年間の定期借地で恒常的な結婚式場をつくるという提案が出てきた。事業者は紳士服大手「AOKIホールディングス」の子 会社である「アニヴェルセル」だ。計画は2つのチャペルと7つの宴会場を備えるもので、延べ面積で約1万7000m2の施設である。

事業者が提出した立面図。いろいろいな時代の様式の建物を積み重ねた設計で、横浜市都市美対策審議会では、この地域のデザインにふさわしくないとの評価が下された(資料:アニヴェルセル)

事業者が提出した立面図。いろいろいな時代の様式の建物を積み重ねた設計で、横浜市都市美対策審議会では、この地域のデザインにふさわしくないとの評価が下された(資料:アニヴェルセル)
事業者が提出した完成パース図(資料:アニヴェルセル)

事業者が提出した完成パース図(資料:アニヴェルセル)
「16街区」汽車道から見える風景(写真:仲原正治、撮影:2012年6月28日)

「16街区」汽車道から見える風景(写真:仲原正治、撮影:2012年6月28日)
すでに整地作業が行われている(写真:仲原正治、撮影:2012年6月28日)

すでに整地作業が行われている(写真:仲原正治、撮影:2012年6月28日)

みなとみらい21地区は「景観条例」で定める「都市景観協議地区」となっている。新港地区で新しい建物を建設する場合もこの条例に基づいて、手続きを進 めることになる。景観条例では、横浜市は協議事項および協議の方針を定めるにあたって、あらかじめ、都市美審の意見を聴かなければならないと定めている。 このため、今回の案件も条例に基づいて意見を聴くことになった。

都市美審での協議が調った場合は、協議結果通知書に記載された市長との合意事項に従って工事に進めることになる。一方、協議が調わなかった場合は当事者 が市長に協議を終了するよう書面で求めることができ、それで協議は終了する。この景観条例には、協議が調わない当事者の義務は書かれていない。そのため、 建築基準法に基づく審査をクリアすれば、それで建築ができるようになる。

事業計画は2012年1月に都市美審に提案された。しかし、「地域の景観と調和していない」「地域の歴史を継承していない」として「デザインの基本的な 考え方の大きな見直しが必要」と都市美審の委員が全員一致で厳しい指摘をした。そのため、横浜市港湾局では30項目の「協議の方針」を示した。事業者はこ れを参考にして、塔の建物の高さ約45mを31mに抑え、外壁のデザイン変更などの一部修正を行った。だが、変更は根本的なものではなく、3月に開催され た都市美審でも判断は変わらなかった。「計画は受け入れがたい」との反対意見が噴出し、協議は物別れに終わった。

この協議は法的拘束力がない。そのため、事業者は計画通り事業を進める準備を行っている。そして、土地の貸し付け者である横浜市もこれを追認しようとし ている。その後、市民や学識経験者によって「横浜内水域の市民利用を考える会」が発足し、様々な議論を行い、市会にも請願した。しかし、請願は不採択と なっている。また、地元の神奈川新聞をはじめ、マスコミも様々な特集を組み、横浜市の姿勢について批判的なコメントを行っている。

この問題への指摘事項としては、次のことがあげられる。

  • 40年以上続いてきた都市美審の審議で、今まで不調になったケースがない。今回初めてこうした問題が生じたが、市長の諮問機関が下した判断を市は重く受け止める必要がある。
  • 横浜市は、景観条例の制定以前から法的な拘束力のない要綱で景観行政を押し進めて来て、効果をあげてきた。条例を設けた矢先に制度そのものを否定するような運用を行うことになれば、条例を制定した意味そのものが問われる。
  • 横浜市は、都市美審などの活用で景観を守ってきたが、仮に都市美審の判断を尊重せず、事業者の計画を追認した場合、今後どのような手法で景観を守るのか。
  • 地域や地元企業など、これまで横浜で事業を進めてきた開発者たちは、横浜市の都市デザイン行政に協力して、協議内容を反映させてきた。そうした要綱や条例を守ってきた人々の行為を踏みにじる行為となる。
  • まちづくりを推進していくには、議論を重ねていくプロセスが大切だが、こうしたこれまでの取り組みを反故にすることで、地元や企業から行政不信が起こる。

これらの指摘に対して、横浜市は「条例上は法的な拘束力はない」という姿勢を崩さない。ただ、市が積極的に景観行政を進めようと考えるのであれば、選択 肢はある。横浜市が所有する4分の1の土地の貸し付けを行わなければよいのだ。実際に横浜市の資産の売却や貸付を決める横浜市資産活用推進会議では、 2010年の会議で景観協議の「すべて」が整うことが「16街区」の土地の貸付け条件だとしている。都市美審でも「土地を貸す、貸さないということについ ては、慎重な判断を」との指摘をしている。それでも土地を貸すのであれば、横浜市は自分で定めた資産活用推進会議の条件を無視するだけではなく、過去の景 観行政を否定することになり、自己矛盾をきたすことになる。
3ページ目

都市デザインと港湾局の埋立事業

ややこしいのは、土地の権利者は横浜市と一言で言っても、管理は港湾局で、デザインなどを総合的に誘導し、都市美審にかける担当は都市整備局都市デザイン室であるということである。都市デザイン室は、未来の横浜を作っていく作業をしており、40年あまりにわたって、民間の開発を含めて景観の誘導や歴史的建造物の保全などを行ってきた機関である。「横浜市の一連の都市デザイン」でグッドデザイン賞を受賞するなど、日本の都市デザインや景観を牽引してきた存在だ。

みなとみらい21地区の旧横浜造船所2号ドックを活用した施設。三菱地所がランドマークタワー開発に伴い自費で残した(写真:仲原正治、撮影:2011年9月
みなとみらい21地区の旧横浜造船所2号ドックを活用した施設。三菱地所がランドマークタワー開発に伴い自費で残した(写真:仲原正治、撮影:2011年9月

陸から海に向かって高さ制限を行った、みなとみらい21のスカイライン。日本中の人がこの風景を見ると横浜だと認識する(写真:仲原正治、撮影:2011年9月)
陸から海に向かって高さ制限を行った、みなとみらい21のスカイライン。日本中の人がこの風景を見ると横浜だと認識する(写真:仲原正治、撮影:2011年9月)

一方、港湾局は、日本の貿易を支える拠点づくりを進めてきた部局だ。経済性を重視してきた。埋立会計の事業採算を確保するために、いかに土地を処分していくかという財政的な問題を慢性的に抱えている。埋立会計は税金を投入するのではなく、埋め立てた土地を売却し、その利益によって事業を進める独立した会計である。

1983年に事業が始まった、みなとみらい21地区も埋立会計で実施されてきており、バブル経済の破たんによって土地の処分が進まなくなっている。そのため、横浜市は莫大な企業債の未償還金を有しており、平成22年度(2010年度)末で約2516億円に達している。償還のためには、土地(埋立地など)を売ってお金を捻出する必要があり、売れる土地ならば、どこでも売っていきたいという事情は確かにある。美観よりも経済性を重視せざるを得ない状況にあるともいえる。ただし、「16街区」については、定期借地権である。その点では、あまり利益は大きくなく、償還にもそれほど寄与しない。

本来ならば、「16街区」のような大切な場所は、民間と共同で事業コンペを行うなどして、事業の採算性に加えて景観を含めた都市デザインの誘導ができたはずだ。しかし、そうした手続きを面倒くさいと思ってしまう。それが現在の横浜市の姿といえよう。

4ページ目

経済は都市を救えるか

誰もが感じる横浜の魅力は「海と港」である。しかし、海や港湾施設を管理する市港湾局はそれが分かっていない。景観を軽視する港湾局の姿勢は、現在進められている「屋形船」の移転計画にも表れている。

新港地区へ向かう万国橋の橋下に、ある日突然「屋形船」を係留する杭の打ち込み工事が始まったのはもう2年前にさかのぼる。近隣の建物の所有者や入居者 にはまったく事前の相談もなく、港湾関係者だけに説明を行い、工事を始めたのである。近隣の所有者や入居者が怒って、港湾局に説明会を開催させたが、改善 案はまったく示されず、聞く耳を持たないという状況が続き、2年の時間が無駄に過ぎた。

港湾局の説明では、屋形船を係留してきた護岸は改修工事が必要なので係留場所を移転させたいとのことだ。一方、反対している地元住民の中にも、一時的に 屋形船を移動させ、その後はまた元の係留場所に戻るという計画ならば容認できるという人が少なくない。ただ、護岸工事を行う土地(北仲地区)は、今後、開 発が進むことがはっきりしている。港湾局として、将来はもっと経済性のあるものにしたいという意向があるのか、今のうちに屋形船を移転させておきたいというのが本音のようだ。今回の「16街区」の景観論争の最中に、いわばどさくさに紛れる形で、地元の合意がないまま工事を強行している。

「屋形船」の係留場所。北仲再開発の地域にある。陸地部分のUR都市機構の賃貸住宅がまもなく壊され、開発がスタートする(写真:仲原正治、撮影:2012年6月28日)

「屋形船」の係留場所。北仲再開発の地域にある。陸地部分のUR都市機構の賃貸住宅がまもなく壊され、開発がスタートする(写真:仲原正治、撮影:2012年6月28日)
万国橋のすぐの場所に係留場所をつくる工事が強行されている。橋のたもとにもかかわらず、景観に対する配慮はまったくなされていない(写真:仲原正治、撮影:2012年6月28日)

万国橋のすぐの場所に係留場所をつくる工事が強行されている。橋のたもとにもかかわらず、景観に対する配慮はまったくなされていない(写真:仲原正治、撮影:2012年6月28日)

横浜市は何を目指すのだろうか。経済性を優先するのであれば、「16街区」に結婚式場はありえないのではないか。若者の就職が困難で、かつ少子化が進む 時代に、どこまで華やかでお金のかかる結婚式をするのだろうか。すでに結婚式場は過当競争に入っており、これが10年20年と続くとは思えない。30年後 の横浜を見据えた時に、朽ち果てた結婚式場の姿が目に浮かぶ。

日本は今、転換期に来ている。世界経済の不況による失業者の増加、少子高齢化、人口減少などによる税収の落ち込み、年金問題、原発事故に伴う電力供給問 題など様々なひずみが日本を襲っている。世界の経済の減退と相まって、将来的にも経済の成長を望めない状況にある。こうした状況下で、経済性ばかりを追求 して、果たしてこれからの世界を救っていく手立てになるのだろうか。昨年、横浜の旧若葉台西中学校にブータン王国のジグメ・ティンレー首相が来られ、住民 に向かって話した言葉は、これからの日本が目指すべき姿を如実に物語っていた。

「経済成長や物質的豊かさを追求する過程で心の問題が大切なことを忘れてきた」「幸せと喜びは違う、喜びは一瞬のもので、すぐどこかに行ってしまう。幸せは長く続くもので、それは家庭に恵まれ、平和に暮らしている姿だ」

経済性や効率性よりも、地域のコミュニティや家族、人間関係を大切にして生きていく。そのことを問うていた。もう一度、「生き方」を問い直すことが必要な時期に来ているのではないだろうか。

5ページ目

横浜市の「おもてなし」の本質は?

林文子横浜市長はよく職員に「おもてなし」という言葉を使う。観光客をいかに増やすか、という視点から、この言葉を使っている。昨年の東日本大震災の後も横浜は、できるだけ早く観光客を誘致するために、他市に先がけてイベントや行事を積極的に開催した。その結果、横浜はホテルの稼働率などが、昨夏以降は前年よりも高くなった。また、市役所では外国からの来賓を拍手で出迎える(「パチパチ隊」と称している)。庁内放送で業務に支障のない職員に周知し、市長室の前に職員を集合させる。来賓を迎える場合のおもてなしは儀礼の範囲だと思って容認もできる。しかし、この「おもてなし」が経済性の追求ばかりになっては困る。

住民や商店街などが率先してホスピタリティを発揮し、様々な観光客を迎えることは、どの都市でも行われていることだ。日常的に「おもてなし」をすることで都市の魅力が高まることは確かである。そして、人々のホスピタリティに加えて、都市としての「おもてなし」も必要になる。その本質は、都市を美しくすることで魅力をつくっていくことにある。その点では横浜市は都市デザイン行政を追求し、都市景観を保存し、新しい景観をつくるなど、「おもてなし」のできる街になってきた。

ここにきて、あやふやな「経済性」に翻弄され、都市の根本的な魅力を破壊する行動を取るということは、失策に結びつくことになる。横浜市が、現在の「16街区」の計画を認めて、市の土地も貸し付けることになると、これから開発を行っていこうとする事業者は、仮に都市美審にかけて協議が不調になっても、開発はできると判断するようになるだろう。経済性を重視すれば、少しくらい景観などに配慮しなくても横浜市は妥協してくれるはずだと思うようになる。その結果、歴史的建造物が保存できなくなったり、街に奇異なデザインの建物ができたりと、景観上ばらばらな、“つまらない街”になってしまう。一部の企業への「おもてなし」はできても、市民や地元の人々、横浜を愛する人への「おもてなし」は、もろくも崩れ去ることになる。経済性ばかりを追求すると街は魅力を失い、来る人も少なくなっていくに違いない。

景観は誰のものか。少なくとも行政のものでも一事業者のものではない。そこに住む人、働く人、訪れる人、すべての人のものだということを忘れてはならない。

6ページ目

美しい街をつくるには、行政と地域が一体になる

横浜市の責任者として建設省と高速道路の地下化問題で戦い、景観の大切さを身をもって訴えてきた田村明氏は「まちづくりの発想」(岩波新書)でこう語っている。

「われわれの「まち」は街路、建築物、樹木など多様のモノの複合でできている。モノがばらばらでなく全体として「まち」をつくるように、総合的なまちづ くりが必要である。・・・ひとつひとつの建物が立派でも、周辺の環境を全く意識していない独善的なものは、まちづくりの共同システムも、共同市民意識もで きないことを示す。逆に互いに人々が協力しあっているまちは、見ていてもそれとわかる。美しい町に、美しい子ら、美しい人々が住むのである。ひとつひとつ の単体のモノは、必ず周辺や他のモノとのかかわりをもち、その全体が「まち」をつくる。モノをつくるときは、それ以前から存在していたモノと、周辺にある モノと、緑や自然のモノと、その関係を考えなければならない」

経済だけで生きていければ良いと思っている人には、「美しい」とか「芸術」とかは無用なものなのだろう。美しい街をつくるということは、街を愛することだ。美しくしたいという気持ちは人々の創造性を育て、心豊かな感性を育む。経済性だけを追求する人や都市は滅びていく。

筆者は今年の5月末まで、横浜市都市整備局都市デザイン室に在籍していた。たった2カ月の在籍だった。この期間中、「16街区」の問題については、活発 な議論が内部でできない状況だった。もし声高に、横浜市は景観を守るために、事業者に対してもっと厳しく指導するとともに、横浜市の土地の貸し付けを行う べきでないと発言した場合、その職員は次の人事異動で他の職場に移動させられる可能性が高い状況だった。自由な議論ができない行政に展望は見えないし、職 員がやる気をおこせない現状は市民にとっては不幸だ。

市長は、市の行政に関して独裁的な権限を持っている。今回の景観問題も、市長が決断できる立場にある。林市長は、いろいろな意見を踏まえて、総合的に判 断すると言っているが、実際には、経済的な観点、それも100年の計を考えるのではなく、横浜経済の活性化という幻想を抱き、一部の事業者の利益になるこ とを優先して結論を出すのではないかと危惧している。今回の景観協議の不調の後始末をどのように進めるのか、注意深く見守っていく必要がある。軽微な変更 案が出てきて、前よりも良くなったと横浜市が評価し、それをもって、すべての決着をつけ、横浜市は土地を貸す。そんな行政の場当たり的な決着方法にならな いことを切に願っている。それは、横浜市が都市デザインを捨てることになってしまうからである。

仲原正治(なかはら・まさはる)
クリエイティブ・ディレクター
 1949年東京生まれ。1974年東北大学法学部卒業。横浜市職員として福祉、都市再開発、横浜美術館、赤レンガ倉庫の開発(みなとみらい21)に従事 し、2004年からはクリエイティブシティの専門家として中心的な役割を担ってきた。2012年5月に横浜市を退職し、クリエイティブ・ディレクターとし て独立。文化芸術によるまちづくりの支援や創造都市のネットワークを活用した仕事を進めている。現在、赤煉瓦ネットワーク運営委員、石巻「日和アートセン ター」運営アドバイザー、MZ arts顧問(陶磁器・現代アートギャラリー)。

7/8 ヨコハマ経済新聞の記事

7月8日、ヨコハマ経済新聞にも、10日のシンポジウムのお知らせが掲載されています。

開港記念会館で「横浜の景観を考える」シンポジウム-MM21の建築計画を契機にhttp://www.hamakei.com/headline/7106/

シンポジウムは、日本建築家協会主催。
JIA神奈川代表の青木恵美子さんにもお話を伺っており、
業界としての問題の大きさを感じられます。

7/7 朝日新聞 「景観論争 決着付かず200日」

7月7日の朝日新聞に、10日のシンポジウムのお知らせと共に、本件について記事が載っています。(LINK)

新たな公式データとしては、
横浜市港湾局は「地権者として」の協議を続けていて「コンセプトの変更を含めた検討をお願いしている。期限を区切らず、協議に全力を尽くす」とのこと。

すなわち、事業者が土地を借りるにはコンセプトを変えたデザインを示すことが必須であるということになります。

以下、記事の本文になります。

【焦点 再訪】景観論争 決着付かず200日

横浜・みなとみらい地区で計画中の結婚式場建設を巡り、景観論争が長期化している。様々な様式が混在した欧風デザインに、市の審議会は「周囲と調和しない」などと批判。予定地の一部は市有地で、市は事業者と200日を超える協議を経てなお、貸し付けの判断を出せずにいる。

大観覧車のたもとに広がる約1・8ヘクタールの建設予定地。フェンスに掲げられた「建築計画のお知らせ」には着工予定8月1日とあり、すでに重機も運び込まれているが、着工のめどはたっていない。

事業者は、大手紳士服「AOKIホールディングス」の子会社「アニヴェルセル」(横浜市都筑区)。「横浜のシンボルであるランドマークタワーや日本丸を一望でき、人生最大の記念日にふさわしい」と同社広報。二つのチャペルと、パリやモナコの邸宅をイメージした七つの披露宴会場を持つ日本最大級の式場を作り、来年秋の開業を予定していた。

ところが、このデザインが大きな波紋を呼んだ。

一帯は、条例で都市景観協議地区に指定されている。昨年12月、ア社が景観協議を申し出ると、都市美対策審議会で批判一色に。「歴史の継承になっていない」「風格、品位が劣る」「これが建つなら審議会は解散した方がいい」――。港町・横浜の顔として、赤レンガ倉庫などの産業遺産と調和するよう丁寧に進めてきた街づくりに反するという意見が相次いだ。

市内の建築家からも批判がでた。横浜国大客員教授の山本理顕さんらは、約500人の署名を集め、審議会の見解を尊重するよう市に要望した。

ア社は、周辺に圧迫感を与えないよう塔の高さを45メートルから31メートルに。周りのフェンスを撤去し、外壁の素材を変えるなど、60カ所以上の変更を提示した。しかし、審議会は「欧風の様式を模倣したデザインの混在」そのものを問題視しており、依然、隔たりは大きい。
通常60日の協議は延々と続き、条例に基づく協議は4月に打ち切られた。しかし、予定地のうち約0・4ヘクタールは市有地。ア社から貸し出しを求められ、市の地権者としての協議が続く。この土地を管理する市港湾局の成田禎企画調整部長は「コンセプトの変更を含めた検討をお願いしている。期限を区切らず、協議に全力を尽くす」と話す。

ア社は、予定地の半分を買収し、市有地以外の賃貸の合意を得ている。取材に「早い段階で良い結果が出るように協議中。できる限りの協力をする」と回答している。

(曽田幹東)

■景観の意義考えるシンポ

街づくりにおける景観の意義を考えるシンポジウムが10日、横浜市中区の市開港記念会館である。日本建築家協会神奈川地域会の主催。

建築家の山本理顕さんが「美しい景観が住みやすい街をつくる」と題して講演。その後、横浜市や海外の景観行政について、3人の論者が討論する。午後6時15分~同8時45分。参加無料。定員450人。問い合わせは、同会事務局(jiakana@beige.ocn.ne.jp)へ。

6/26「横浜港内水域の市民利用について考える会」へ、市長からの回答

6月26日、
「横浜港内水域の市民利用について考える会」へ市長からの回答が届いたようです。

http://naisui.hama1.jp/e969696.html

市長からの回答に対する指摘が、書かれています。

また、引き続き署名を募集されているようです。

6/25 神奈川新聞の「波止場から(6) 都市美対策審議会」

6月25日(月)の神奈川新聞に本件について記事が掲載されていました。

4日の神奈川新聞で掲載された、都市美対策審議会の会長の卯月盛夫氏へのインタビュー記事の続きです。

卯月委員長の問題提起は、行政の制度について。
景観制度のあり方は、都市計画の制度とともに2004年の景観法の成立前から議論されてきましたが、記事によると、横浜市は数値的な規制よりも、事業者との対話による「協議」に重きをおいて、これまで都市計画を進めてきたようです。
ところが、16街区ではこの「創造型協議」が機能しなかった。

今後につなげる為にも、なぜ機能しなかったのかも議論していく必要があるように思えます。

以下、記事をテキスト化しました。

波止場から⑥ 都市美対策審議会

4日付 「マンデー経済」に横浜市都市美対策審議会会長の卯月盛夫・早稲田大学教授のインタビュー記事を掲載した。4月28日に同大学で行ったインタビューは2時間以上におよんだ。掲載に当たっては、景観論争への疑問を解きほぐす分かりやすい記事を心掛け、表現を推敲した。

掲載する直前に、市民団体「横浜港内水域の市民利用について考える会」がみなとみらい16街区の開発をめぐって都市美対策審議会の答申を尊重するよう、市会への請願に動きだした。

15田の市会経済港湾委員会では請願の審議が行われた。賛成少数のため不採択となったが、焦点となったのが行政手続き。標準協議期間(60日) を超える128日間協議したことへの評価だ。

行政手続きをめぐり、スペースの関係でやむなく割愛したインタビューの続きを掲載する。

—市は事業者と60日間を超えて協議したと説明している。
「申請する日というのはいくらでもコントロールできる。 申請日をいつにするかは、事業者は都市デザイン室と港湾局とで申請日前の何ヵ月も前から実施している事前協議の中で、ある程度決めることが可能である。60日聞というのは正式な申請書の受理後、審議会に諮問して若干の指摘が入っても十分修正可能というスケジュールという理解である。つまり、申請前の事前協議こそが重要だ。今回は128日前にあのような 図面で申請させたことが問題だと僕は思う。事前協議に数年かかるか、数ヵ月ですむかは、もちろん事業者の提案次第である。提案内容が地域にふさわしいものでなければ行政は粘り強く修正を要求すべきである。事前協議は表面には出ないが、これこそが重要である。今回はもうこれ以上事業者は待てないということで、行政との合意なしで申請書を出してしまったのではないかと想像する。これは、行政と事業者の信頼関係を崩す、大変不幸なことである。したがって、その時から起算して60日間以上経過しているというのは、あまり意味はない。繰り返しになるが、行政にとって絶対受け入れられない内容であれば、『受理できない!』と言い続けるしかない。かつての田村スクールの方々はそれをやっていた。残念ながら今はそれができない状況なのです」

―市の創造型協議とは何だったのか。
「オランダ、特にアムステルダムを中心に協調型協議というのがある。ドイツみたいに公共も民間の土地もすべてを含めて街のビジョンを最初に描いて、それに合うように公共は自分でやるし、民間をコントロールしていく。そういう地区詳細計画による事前確定型があった。今ではそれはもう古い。それでは民間はついてこない。あるいは民間が本当にやりたいことが事前に作った役所の計画に合わないケースがある。民間が本当にやる気にならないと都市は活性化しないので民間の活力を取り入れながら協調してやっていくというのがアメリカ型だった。ただ、アメリカ型はかなり柔軟なので、日本には合わないかもしれない。だけど、ドイツ、イギリスはそういう伝統ではなかったので、協議のなかで民間がやりたいことの設定を見いだすという事前協議にものすごく時間をかける。アムステルダムの事前協議には副市長が出席するそうです。この『創造型協議』というのは僕がオランダから学び、横浜に提案した言葉なのです」

「でも、そういう形は今の法律や命令ではなかなかできない。今僕が問題だと思っているのは、『地区計画至上主義』。地区計画があれば、すばらしい景観や建築が実現すると多くの専門家は信じているが、まったくそうではない。建築のことをあまり理解せず、厳しい地区計画によって最終的には単調な景観が生まれたり、逆に区間プロジェクトを実現するために地区計画を後付けし、周辺環境と調和しない事例が生まれている。本来地区計画によって魅力的な景観や建築を生み出そうとしたにもかかわらず、まったくそうなっていない。これは創造型事前協議とおおいに関係がある」

―オランダの例は参考になる。
「まだ計画内容が決まっていない段階でも行政は将来の姿を描いてみる。景観のガイドラインがあるのだから、それは十分可能。行政の意思を示しておくことによって、事業化の可能性が見えてきた時も交渉しやすくなる。もちろん、最初からコンペをしかける選択肢もある。コンペにすることによって、市民の関心も高まる。いずれにしても行政がやる気になれば創造的な協議に持ち込むいろいろな手法はある。それなのに創造的な協議の場をつくることができなかった。残念ですが、60日の起算をする申請前の事前協議に失敗したということです」

(聞き手・三木 崇)

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